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特集

カーボンニュートラルとIT活用

  • 2023年11月13日
  • 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 吉田明弘
カーボンニュートラル&IT活用

ここのところ「カーボンニュートラル」「脱炭素社会」などの言葉が注目されています。
とはいえ、中小企業・小規模事業者にとっては、あまり関係のないことだと感じている人も多いと思います。

ここでは、小規模事業者にとってのカーボンニュートラルの意味、ITによる対策の方向性を紹介します。

小規模事業者にとってのカーボンニュートラル

カーボンニュートラルへの対応は、基本的には化石燃料の消費に伴う温室効果ガスの排出をなくすという活動になります。
社会的には意味のある取り組みで、社会全体が持続可能であるために、温暖化などの環境変化をできるだけ緩やかにしたい人は多いでしょう。 ただ、事業者にとっては、ビジネス上の価値がなければ、対策のモチベーションにはつながらないと思います。それでは、カーボンニュートラルにはどのようなビジネス上の価値があるのでしょうか。

大きく考えると以下の3つがあります。

 

顧客・取引先との関係性

顧客/取引先との関係性

大企業は、各国政府や株主などからカーボンニュートラルへの対応を求められることがあり、その場合、サプライチェーンに連なる小規模事業者も対応が必要です。
また、一般消費者向けにビジネス展開している事業者も、ターゲットとする顧客層がエシカル消費(社会的な意義を消費の中でも求める動き)を好む場合には、カーボンニュートラルは付加価値になります。これは「なんとなく良さそう」というイメージ戦略としてだけの取り組みではなく、顧客に対するひとつの価値提供です。

生産量あたり消費エネルギーの削減

化石燃料の消費を削減する活動は、事業活動の省エネにつながる活動でもあります。また、業務内のどこでどれだけのエネルギーを消費しているか明確にすることは、原価管理の精度を高めることにもつながります。つまり、カーボンニュートラル対策は、生産性の向上につながり、それは利益の向上にもつながってくると言えます。

リスクヘッジ

世界的な政治経済の動きは、何度も燃料価格高騰を引き起こしています。戦争や災害などによる価格変動だけでなく、炭素税などによる意図的な価格調整が行われる国もあり、今後も化石燃料の調達が安定的に行えるとは限りません。
現時点では、再生可能エネルギーも不安定であることに注意が必要ですが、石油やガスへの依存をなくすことには、ビジネス上のメリットがあります。

排出量を削減するには?

では、化石燃料の消費に伴う温室効果ガスの排出をなくすには、何をすれば良いのでしょうか。
まずは、事業活動の何が排出量に関係してくるのかを見てみましょう。排出量を算定する枠組みでは、以下の図のように関係するモノゴトをScope1、Scope2、Scope3に分けています。

上流・自社・下流

出典:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「排出量算定について」

Scope1とScope2は、自社で直接的にエネルギーを消費しているので分かりやすいですが、Scope3は、事業に関係する他社が排出している分になります。大企業などがScope3まで含めて対応するとき、取引先になっている小規模事業者にも対応が波及します。
これらを踏まえて排出量を削減するには、以下の3つの観点から事業活動を変えていくことになります。

エネルギー源の変更

機械をガソリンで動かすなどしているScope1の業務があれば、それをなくすことをまず検討します。ただし、単純に業務をなくすわけにはいかないでしょうから、多くの場合、エネルギー源を化石燃料から電気へと変えることになります。
すると次は、Scope2についても考えることになります。電気を使っていても、発電所で化石燃料を燃やしていては意味がありませんから、再生可能エネルギー発電へと電力源を選択していくことになります。

設備の変更

上の項目にも関係しますが、設備の変更によって化石燃料の消費をなくしていきます。ガソリン自動車をEV(電気自動車)に替えたり、最新の設備にして省エネ性能を飛躍的に上げたり、設定を変更して省エネしたりします。原材料のロスが減る、設備自体が長く使える、という変化もカーボンニュートラルにつながっていきます。

業務の改善

排出量削減だけを考えるならば上述の2つがメインですが、事業全体の改善につなげるならば、業務におけるムリ・ムダ・ムラをなくしエネルギー消費を減らすことも考えたいところです。一連の作業が離れた場所で行われていて輸送が必要になっている場合、作業場を集約するのもエネルギー消費の削減になります。

前提となる排出量の把握

このような対応を進めるには、効果を測定する仕組みも必要となります。どのようなデータが必要になるかは、カーボンニュートラル対応の目的によっても変わりますのでまずは目的を明確にしましょう。
中小企業向けSBT(※)に参加するには、少なくともScope1、Scope2の排出量を把握する必要があり、電気やガスなどのエネルギー使用量を集計していくことになります。

より細かく改善を進めていくためには、設備ごとや業務ごとの消費エネルギー量を見ていきます。設備や業務の改善は、本来カーボンニュートラルだけを考えて進めることではなく、事業全体の最適化として検討するものです。この機会に、特定の商品を作るのに実際にかかった原価を把握する仕組みを構築することも考えられます。
なお、取引先から情報提供が求められている場合には、納品物(種類)ごとの排出量を計算するため、材料ごとの輸送方法と距離など把握する必要があります。

※J-Net21 ビジネスQ&A「カーボンニュートラルをめざすSBTには中小企業も参加できますか。」

カーボンニュートラルで役に立つIT(Green by Digital)

前述のように、カーボンニュートラルを契機に、原価管理の仕組みを整える場合には、ITは大きな力を発揮します。原価管理においては、業務フローの整理と標準原価の設定などとともに、作業時間の計測などを行うことがあります。従業員の手によって計測や記録をしていくと大変な手間になってしまうので、必然的に自動化、省力化したいというニーズが出てきますが、それには作業日報のデジタル化やIoTによる自動計測が有効です。また、集まったデータを集計・分析するのも、手作業では手間がかかりすぎるため、ツールによる集計の自動化、省力化が必須になります。

別の観点では、人やモノの動きを減らすということもあります。過去、コロナ禍において、世界的に人の動きが強制的に止められましたが、そこで有効だった対策はここでも有効で、ITを前提としたテレワークやリモート営業によっても排出量は削減できます。

そして、消耗品や廃棄物を減らすという観点からはペーパーレスの仕組みも有効です。注文を受けてから作って販売するまでを、ITによって効率化することで、在庫を削減することも考えられます。来客数を予測することで廃棄ロスを減らすシステムもあります。

カーボンニュートラルというと、どうしても大企業のサプライチェーンに組み込まれる輸送・製造関連業が目立ちますが、目的設定によっては、他業種の小規模事業者にとっても取り組む価値があります。そのときには、ぜひIT活用まで見据えて検討してみてください。

中小機構 J-Net21では、「中小企業・小規模事業者のためのカーボンニュートラル」と題し特集ページを公開しております。
より詳細な施策に加えて、支援機関によるカーボンニュートラルの支援事例も掲載しておりますので、ぜひご参考ください。

J-Net21「支援機関によるカーボンニュートラル支援事例」

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